バンドTAOH「恋人ごっこ」MVに寄せて

TAOHのMVをつくりました。これについては「僕も自分にNatureにつくりたいな」とか思ってつくった面もあるので、解説などしません。TAOHの活動やコンセプトについても本人たちが話せば良いことなので言いません。TAOHの話を残しておかないとっていう変な義務感が謎に出てきたので所感を書き記しておきます。松江さんとの付き合いが一番長いので松江さんのことを書きますね。いまMVのレンダリングに時間がかかっているんで、空いた時間にね。

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松江さんがバンドを組んだ。

松江さんとの関係は難しい。元々仕事上のパートナーだが、特に契約がなく金銭のやり取りもないので、明確な上下関係もない。そんな中でもう7〜8年の付き合いになる。
ただ僕のルールに「実家に泊まったものは友達とする」という規約があるので、去年めでたく友達となった。TAOHメンバーの高仲さんはひと足早く一昨年友達になった。何か隠喩っぽい響きになっちゃったけど、ふたりとも年の離れた友人だ。

いつ頃だろうか、去年末か今年に入ってだったか、松江さんがバンドをはじめたって話を聞くようになった。僕は出産と育児で半年ほど岡山にいて、松江さんとは夏に岡山で会って以来なので、直接本人から聞いたわけではない。Facebookで流れてきたような気もするし、ONLY FREE PAPER周りの誰かから聞いたような気もするが覚えていない。

その頃僕は、岡山での生活に疲れて東京に戻り、慣れない育児に気を取られながら、仕事の壁にもぶち当たったりして、家から全く出ない日が続いていた。メンタルぼこぼこにやられて体調を崩していたので、松江さんがバンドはじめたとかそれどこじゃなかったし、もうホント心底どうでもよかった(というふうに感じたと思うんだけど、正直記憶が曖昧なほどヘコタレていてあまり覚えていない)。
他人がバンドを組むということが、ほとんどの人にとってはどうでもいいことだっていうのを、久々に思い知った。
そんなうちにSNSのアカウントが出来たり、活動しているよって感じを匂わせてきたけど、僕に限らず周りのみんなも半笑いで聞いていて、いいねやフォローしようかすら迷っている雰囲気があった。

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松江さんはこれまでもずっと音楽をやっているとみんなに言ってはいたが、それらしい活動は伝え漏れて来なかった。本人はあまり喋りたがらないが、昔ニューヨークにジャズピアノで留学していた話は鉄板だ。それだけで初耳の人はたいてい驚いた後、笑う。

はじめて松江さんの演奏を見たのは、一昨年の年末に開いた僕の結婚パーティーでのこと。たこ洋品店(TAOHの前身バンド?)というユニットを高仲さんと組んでいた。これはONLY FREE PAPER関係のイベントで空いた出店者枠を埋めるためにノリでつくったユニットだった。結構練習してきてくれたらしいのだが、当日の酔っ払った松江さんはヒドイものだった。個人的には楽しかったし、あの場ではそれが良くて盛り上がったように思う。ただ後日、本人は大変不服そうだった。

たこ洋品店は音楽をやりながら古着を売るというよくわからないコンセプトで活動していた(実質の活動は上記2回とZINE1冊)。
ここで補足しておくと松江さんは口下手だ。たまに溜めていた物を吐き出すように饒舌な文章をリリースするし、インタビュー記事などではものすごい量の直しを入れたりする(この文章にも入れるかもしれない)。恥ずかしがりなのか、恥をかきたくないのか、普段はあまり多くを語らない。行動の発端がノリや思いつきのこともあるので、そのままよくわからない活動をしていたりする(これが後述のNatureというやつだろうか)。高仲さんに至ってはエグめの下ネタ以外しゃべらない。
そんな感じなので、ONLY FREE PAPER以外のことはあまり見向きもされないし、知られない。まぁ、そもそもどの程度本気でやってんのかっていうのと、はたから見ると意味わかんないからおもしろくないっていうのがある。たこ洋品店もたぶんそれだった。

ついでに、これも補足だが、ONLY FREE PAPERの周りの人たち、スタッフやフリーペーパーの発行者たちはみんな、そんな松江さんのことが好きだ。なぜ好きかというのは、言葉で説明しづらく、これは実際に会ってみる他ないんじゃないかと思う。しかも、初対面ではダメで何度か会って時間をともにしなければいけない。めんどくさい。エピソードに暇がないが、一言で言えば「無口な強面が無自覚に発する気功のような可愛げ」とでも言っておくけど。みんなすでにもうそれを愛でているに等しい。なので、松江さんがバンドを組んだという話を聞いて、みんなキャッキャウフフしていた。

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さてそんな折、そのバンドが「TAOH」って名前で、本格的に活動を開始するんだという。それとともに、僕のところにも松江さんから「MVを撮ってほしい」と依頼が来た。
映像の仕事や制作もちょくちょくしていたが、本業ではなく門外漢なところがある中で、表現面で信頼して名指しで声を掛けてくれたことは単純に嬉しかった。が、場合によっては断るつもりでいた。最初に言ったように全く興味がなかったし、心底どうでもよかったし、そんなものに付き合っている余裕がその頃の僕にはなかった。松江さんには常々、本業もっと頑張れよ、と思っていた。また一緒に仕事しようよ、金引っ張ってこい、と思っていた。

と思いつつも、打ち合わせをするというのでノコノコと出かけていった。
なんかおもしろい話が聞けるかなってのと、ネットで記事など見る機会のあった根岸さんという人にも会ってみたいかったっていうのがその実。

明大前の中華料理屋でスタジオ終わりに辛い中華焼きそばを食うおじさんたちの「バンドをはじめたての高校生のような高揚感」を浴びた。
僕も何故かそのノリに感化されてしまったのが正直なところで、30代に入ってそろそろ経験しなくなって久しいあの感じを40歳前後のおじさんたちから発せられ、不意に少しテンションが上ってしまった。辛い中華焼きそばのせいもあるんだろうなと今になって思う。大変楽しかったが、特筆すべき内容はないので割愛する。どうやら割と本気らしいのは伝わってきたが、それがどこまで熱に浮かされた今だけのもので、将来性のあることなのかは判別出来なかった。

ちなみに、ここでは彼らを「おじさん」と呼ぶ。僕はあまりこの呼称好きじゃないんだが、彼ら界隈が好んで使っているのを見聞きしているので便宜上借りることにする。表現活動をするのに年齢は関係ない。

とはいえノリで何とかなるもんでもなく、曲を聴かせてくれるということで、iPhoneに刺さったイヤホンを渡された。勝手にプログレをノイズで煮染めたような他人から理解されることを拒む趣味全開の音楽がなるものだと身構えていたのだが、まさかの歌モノだった。理解を求めているようにも聞こえた。

事前に用意しておいた「親父バンドじゃん、地元の祭りでベンチャーズやって、NHKの大会出る超趣味のやつじゃん!」という感想をデリートし、「聴けますね、Spotifyにあればリピします」と述べた。
音楽を評する言葉を多く持ち合わせているわけじゃないので、曲のことや背景を聞くことにしたんだけど、そこから根岸さんの身の上話に発展し、西洋哲学と東洋哲学がどうのという流れを経て、「Nature」という言葉にたどり着いた。

TAOHのジャンルは【Nature】、和訳すると「環境音楽」なんだという。この辺の話は機会があれば、本人たちから直接聞くのがいいと思うが、とにかくNatureな活動をしていくのだという。もはや概念として使っているので僕の口から説明できない。松江さんの可愛げみたいなものだ。
直訳すると「自然」で、実際それに近い意味で使っているようだった。僕の頭の中では「Nature=自分に正直」と自動翻訳された。その他の翻訳ワードに「妥協」や「怠慢」という単語も見え隠れしたが、触れないようにした。おじさんを追い詰めるのも本意ではない。

とりあえず初めて会った根岸さんから出てきた身の上話の情報量が多すぎて咀嚼しきれていないのだが、主にそれがとてもおもしろかったのと舞い上がった高揚感に浮かされてMVの依頼を受けることにした。もちろんギャラも出るって言うんでね。松江さんには「めっちゃおもしろい人見つけましたね、と後でこっそり伝えます」とその場で伝えた。

MVのイメージをヒアリングすることにしたが、内容はまず自分たちのバックグラウンドがわかるものにしたいんだという。まずは自己紹介からなのだと。各々を象徴する衣装で、自分たちを見せたいと。
言いたいことはわからないでもないのだが、僕は人間性先行で作品を評価することはできないと常々考えているので反対した。誰も知らないバンドのメンバーのことなど、誰も知りたくない。もはやそれはギャグだ。身内だけに向けた、ただのギャグ。MVもバンドも。おもしろいと思いはじめたところだったので残念だった。
さらに、今度ギャラリーで展示を行うのだというが、その内容も同様のテーマだと言う。これまで自分たちに影響し、今の自分たちをつくってきたものを展示するのだと。

そもそもファンなんて誰一人いないのに、ファンに向けたかのような行為を、バカらしいとさえ思った。満を持してのつもりかもしれないが誰も待望していない。人間性じゃなく作品自体で勝負しろよ、としか思えなかった。そんなの知り合いが義理で見に来るだけじゃん。1年目の美大生がやりそうなチープなテーマだとも思った。
しかし、そこで年齢が乗ってくると話は違ってくるのも感じた。おじさんって強えな、と。それぞれに様々な経歴があり、経験を得、知恵や技術を備えている。紆余曲折を経た人生の乗った音楽と活動はそれらに裏打ちされて躍進するかもしれない。根岸さんの話にはその説得力があったし、その全てが音楽に還元されれば、大きい何かを生むのではという可能性を感じた。まぁ、それが無駄なプライドとして1枚乗っかって活動の妨げになってるようならすぐに辞めちまえとも思うし、趣味で勝手にやってろよ巻き込むな、の範疇を抜けない可能性も大いにある。その時は判別出来なかった。
僕の考える多くの人にとっては彼らが何者であるかなんてどうでもよかったのだけど、それがどうでも良くない事情がTAOH中には絡まっている。その絡まりを1本ずつ解いていく作業がNatureなんだろう。おじさんはめんどくさいな。松江さんが、根岸さんが、高仲さんが、彼ら3人がやっていることに意味があるのだろう。
ただ僕を巻き込んだ以上は、それなりの成果を上げてもらわなければならない。楽しかったね、嗚呼遅咲きの青春、などと言おうものなら仕事の縁を切るつもりでいる。根岸さんは今までの本業を廃業してバイトをしながら曲をつくっているのだという。根岸さんについてはあまりに個人的な理由が大きそうなので何とも言えないが、経歴や実績っていうのは積めば積むほど責任をまとい、重くのしかかるのだと思う。僕から言うことでもないけど、僕が今こうしてこういう感情になるのもその現れだろう。

歳を重ねたおじさんのズルさをフルに使って成り上がってほしい。知り合いが義理で見に来ればいいんだ、年齢はハンデじゃなくてシードなんだと、このとき気づいた。これもNatureってことにしとけばいいのかな?

そういうことで、そのプランに大いに反対し意見したが、結果的に受け入れた。
理解を求めているように聞こえたあの歌も後押ししたのかもしれない。

「TAOH」とは中国哲学で「道」のことらしい。奇特な道だな。

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撮影当日、最低限ギャグにならないようにと再三に渡る注意をしたのだが松江さんはキレイに眉毛を剃り上げ、Tシャツの袖を破り、瞳孔の小さくなるカラコンを入れ、バンジョーを弾いた。その姿を使えと言う。が、使ったら使ったで後頭部の剃り跡が失敗しているからやっぱ使うなと言う。松江さんにとってはそれがNatureなのだそうだ。そんな格好の松江さんは見たことがないので、撮影後にそのままガストで定食を食う松江さんは異物でしかなかったし、僕にはその姿がどうしてもNatureだとは思えなかったが、自分で言うならそうなんだろう。それなら仕方がない。だって、Natureなんだもの。あ、Natureって可愛げのことでもあったのか!

最近別で映像の仕事もあるのと、生まれた子どもも撮りたいからと割り切って、この機にカメラを新調し、機材を揃えた。
いくらギャラを貰っても赤字だが、それでいいという仕事がある。これがそれ。僕の中の問題なので他人からそれでと言われると癪に障るが、今回は自分の判断。なので、こういう場合は向こうの言い値に任せる。ガストにて取っ払いで受け取った。ただ、だからこそ最高の状態で出したいし、最高の状態で届けてくれよと切に願う。

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これからのTAOHのことを僕はまだ知らない。曲もまだ「恋人ごっこ」の1曲しか聴いていない。関わってもまだ興味は薄いままだ。多くの人にとってどうでもいいバンド、TAOH。早くどうでも良くないバンドになればいいなと思う。もうおじさんなので応援はしないが、辞めんなよ、とは言いたい。
生意気にごめん。僕はTAOHを好きになれそうな気がしている。

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MVのレンダリングが終わったので寝ますね。