コミュニティスペース「結」VI
成安造形大学
成安造形大学のコミュニティスペース「結」リニューアルにおける、ビジュアル・アイデンティティの提案。
リニューアルに際し、デザイン面を一新するだけでなく、“結”はこの20年で何を培ってきたのか、そもそも“結”とは何なのか、“結”は何を目指したのか、そして、これからの“結”はどうあるべきかを整理しました。
「結」は、大学・地域・ブルーベリーフィールズ紀伊國屋のあいだにあり、人と人、人と地域をつなぐ、より身近なコミュニティのための場所です。外と内の中間にあって、その双方をつないでいる場所として、大岩剛一さんの自力建設/セルフビルド、ストローベイルの土壁のような耐久性と親しみ、そして岩田康子さんの手づくりのもの、みんなが分かち合う食卓の精神を重ね合わせています。
本件では、【みんなで掲げる旗】として、関係者が自分事とできるビジュアル的なアプローチを目指しました。シンボルマーク、ロゴタイプ、テーマカラー、使用規定、結システムを設計しながら、誰でも自由に触れて、改変できて、使うことのできるシンボル、組み替えたり、解体したり、合体したり、自由に遊べるシンボルとして、VIを用いた開発・改変と、それによる新しい価値の創造を歓迎する計画としています。
A visual identity proposal for the renewal of “Yui,” a community space at Seian University of Art and Design.
Rather than simply refreshing its visual design, this project began by reconsidering what “Yui” had cultivated over the past 20 years: what “Yui” is, what it originally aimed to become, and what it could be from now on.
“Yui” exists between the university, the local community, and Blueberry Fields Kinokuniya. It is a place for creating connections and deepening relationships—a more familiar community space that connects people with people, and people with the region. As a place between inside and outside, connecting both sides, the identity brings together the spirit of Goichi Oiwa’s self-build architecture and straw-bale walls, with their durability and warmth, and Yasuko Iwata’s belief in handmade things and tables where people share food together.
The concept was to create “a flag for everyone to raise together.” Through the symbol mark, logotype, theme color, usage guidelines, and Yui system, the project aims to make the identity something that people involved can take as their own. It is designed not as a fixed mark, but as a symbol that anyone can touch, modify, and use—something that can be rearranged, taken apart, combined, and played with freely. In this way, the VI welcomes development, modification, and the creation of new value through its use.
「結」は、大学・地域・ブルーベリーフィールズ紀伊國屋のあいだにあり、人と人、人と地域をつなぐ、より身近なコミュニティのための場所です。
本計画では、リニューアルに際してデザイン面を一新するだけでなく、“結”はこの20年で何を培ってきたのか、そもそも“結”とは何なのか、“結”は何を目指したのか、これからの“結”はどうあるべきかを整理し、次の20年に向けたVIとして設計しました。
“結”はこの20年で何を培ってきたのか?
はじめに行ったのは、「結」の現状の分析と認識の共有です。
《成安造形大学》における「結」は、産業や地域との接点であり、学生にとっての“サードプレイス”的存在です。《地域》においては、大学や産業との接点であり、地産地消、日常から離れた“サードプレイス”でもあります。《ブルーベリーフィールズ紀伊國屋》においては、地域や顧客との接点であり、地産品・外部資源の活用の場でもあります。
切り離して考えてはいけない。けれど、内包されすぎては意味がない。
大学、地域、ブルーベリーフィールズ紀伊國屋、それぞれとの適切な距離感を考えながら、「結」の位置づけを整理していきました。
そもそも、“結”とは何なのか?
「結」とは、小さな集落や自治単位における共同作業の制度のことです。
もともとは農作業、家の普請・改修などの際に、互いの労力を提供しながら助け合う相互組織や仲間のことを指していました。
ここでは転じて、地域に根をおろし、新たな文化を発信する場としてのカフェテリアが育む「人の輪・つながり」への思いが込められています。
この名前の由来を、現代の結のかたちとしてどう引き継ぐことができるのか。VI計画は、その問いから始まっています。
外と内の中間にあって、その双方をつないでいる場所
「結」設立を主導した大岩剛一さん(建築家/元 成安造形大学 教授)は、滋賀の地でストローベイルハウスの研究と実践に取り組んだ人物です。大岩さんにとって建築は、単に建物を完成させることではなく、地域の素材や自然由来のものに触れながら、人が集まり、手を動かし、関係性をつくるためのプロセスでもありました。
「結」は、外と内の中間にあって、その双方をつないでいる場所です。ニュータウンと仰木の里、大学と紀伊國屋と地域、自然と家と都市。近代的な都市計画の中で失われてきたものを、もう一度つなぎ直すための、辺、端、縁側のような場所として「結」を捉えました。
中心ではなく、あいだにあること。そのあいだにあるからこそ、人と人、人と地域をつなぐことができる。「結」のVIは、この場所のあり方を視覚化するための計画です。
自力建設 — セルフビルド
「結」の設立背景には、建築のプロセスを目的化するという考え方があります。
なぜ大岩さんは自力建設を大切にしたのか。なぜ地域の素材や自然由来のものにこだわるのか。多くの人が訪れる場をつくりたいなら、多くの人に手伝ってもらって建物をつくるべきで、そのためには多くの人が扱いやすい材料を選ぶべきで、それは昔から地域の人が扱ってきた地元の材料である。
完成した建物だけではなく、そこに至るプロセスそのものが、関係性をつくる。ストローベイルの土壁のような耐久性と親しみは、次の20年へ向けた「結」の価値として、VIの設計にも引き継がれています。
土を耕すことは、私の心を耕す
岩田康子さん(ブルーベリーフィールズ紀伊國屋 創業者/カフェテリア「結」のオーナー)は、比良山系の中腹でブルーベリー畑を開拓することから、ブルーベリーフィールズ紀伊國屋のジャム造りは始まりました。
なぜ岩田さんはブルーベリー畑を開墾したのか、なぜジャムをつくるのかを著書から紐解き、「この場所なら生きていける」「土を耕すことは、私の心を耕す」という言葉を引用しました。
“手づくりのものがあり、みんなが分かち合う食卓がある。そのジャムがきっかけになって、食卓に会話が生まれたら、おいしい笑顔があふれたら、それがいちばんうれしいこと。私の炊いたジャムである必要もない。あなたが炊いてくださったほうがいい。”
建物を自分たちでつくること。食べること、炊くこと、分かち合うことを自分たちの手に取り戻すこと。大岩剛一さんの自力建設の精神に、岩田康子さんの食と農の精神を重ね合わせながら、誰でも自由に触れて、改変できて、使うことのできるシンボルへと接続しました。
人と人、人と地域をつなぐ、より身近なコミュニティのために
「結」の目指す姿は、繋がりをつくり、関係性を深めていくことです。
大学、地域、ブルーベリーフィールズ紀伊國屋のあいだにあり、人と人、人と地域をつなぐ、より身近なコミュニティのために存在する場所。その体験は、実際の対人的なサービスだけでなく、コミュニケーションによって大きく影響をされます。
VIは、コミュニティスペースとしての機能の品質を向上し、統一させるために存在します。価値ある体験を創造するために、背景と概要を理解し、適切に活用できるものとして設計しました。
みんなで掲げる旗をつくりたい
デザインの方向性を示すコンセプトは、「みんなで掲げる旗をつくりたい」。
自分たちの場所だと自覚の持てる、ビジュアル的アプローチを目指しました。VIは、外から与えられる記号ではなく、関係者が自分事とできるもの。「結」に関わる人たちが、ここは自分たちの場所だと感じられるように、共通のシンボルを設計しています。
3つの点を結ぶ
シンボルマークは、結を表すモチーフ、欧文の綴り、構成・構図をもとに設計しました。
ブルーベリーの木と実。3つの点を結ぶ、大学・地域・紀伊國屋を繋ぐかたち。高く掲げる、持ち手から空へ広がる構図。食器のフォーク、農業用フォーク。そして、線と円で強くしなやかな印象をつくるシンプルな要素。
これらを重ね合わせながら、「結」を表すシンボルマークとしてまとめています。
次の20年への強さ/しなやかさ
「結」が大切にする価値は、次の20年への強さ/しなやかさ。ストローベイルの土壁のような、耐久性と親しみです。
ロゴタイプは、時代を感じさせない普遍的なタイポグラフィをもとにしています。強くしなやかに先の20年を見据え、線幅と角の処理でシンボルマークとの連携をとりつつ、無機質になりすぎない、ゆったりとした曲線で優しく自然な印象に仕上げました。
テーマカラーは、YUI Green。深いながらも瑞々しく鮮やかな緑は、リニューアル前のカラーを引き継ぎつつ、新しい可能性を感じさせます。
使い続けるためのルール
VIの適用範囲は、基本的には全てのコンタクトポイントです。
看板、パンフレット、ホームページ、広告、イベント、ノベルティグッズなどを対象としながら、各種製品やサービスのデザインは、それぞれのブランディングを優先します。
シンボルマークとロゴタイプの組合せ、アイソレーション、色、パターン、利用禁止例を整理することは、表現を制限するためだけのものではありません。結固有の訴求効果を弱めたり、ブランドイメージを混乱・毀損させることのないようにしながら、より多くの人が適切に活用するための土台として整備しています。
自分たちのための場所を、自分たちでつくるように
本計画でもっとも重要なのは、創造的なアプローチです。
自分たちのための場所を、自分たちでつくるように。ワークショップ形式で、みんなでつくるシンボル。誰でも自由に触れて、改変できて、使うことのできるシンボル。組み替えたり、解体したり、合体したり、自由に遊べるシンボル。―――プロセスを目的化する。
結におけるVIの運用は、本ガイドラインの規則に限ったものではありません。ここまでの内容は、あくまで「このように運用することで、最低限のデザイン性を担保し、統一的な印象をつくり出すことが可能である」という設計者からの提案にすぎません。
結の設立理念に影響を受け、結建築の自力建設性・美術大学の自治制・紀伊國屋の自立性に則り、このVIを用いた開発・改変と、それによる新しい価値の創造を大いに歓迎します。創造的で発展的な意図においては、著作者は改変を許諾し、そのすべてを活用者に委ねます。
建築を自分たちでつくること、食卓を自分たちで分かち合うこと、そしてVIを自分たちで触れ、改変し、育てていくこと。ここで設計したのは、完成された記号ではなく、使われながら関係性をつくっていくための仕組みです。
点・線・円から広がるシステム
創造的で発展的な意図のための糸口として、独自のVIシステムを設計しました。
結システムは、点を線で結ぶことで成立します。点・線・円のエレメントから構成され、3×3の点の並びをフォーマットとします。
シンボルを守るためだけではなく、図形の展開、文字の展開を通して、新しい表現を生み出すための仕組みとして設計しています。ルールと余白を同時に持たせることで、統一的な印象と、関係者それぞれの創造的な関わりを両立させることを目指しました。
これからの“結”
「結」は、大学・地域・ブルーベリーフィールズ紀伊國屋のあいだにあり、外と内の中間にあって、その双方をつないでいる場所です。
このVI計画は、ロゴを固定された記号として扱うのではなく、みんなで掲げる旗として、関係者が自分事とできるビジュアル的なアプローチを目指しました。
次の20年への強さ/しなやかさ。ストローベイルの土壁のような耐久性と親しみ。人と人、人と地域をつなぐ、より身近なコミュニティのために。
「結」のシンボルが、これからも使われ、触れられ、改変され、育てられていくこと。その過程で、新しい関係性と新しい価値が生まれていくことを願っています。
【参考文献】
『大岩剛一選集 ロスト&ファウンドー懐かしい未来の風景と建築』大岩剛一 著、辻信一 編(ゆっくり堂/2022年)
『ブルーベリーの実る丘から』岩田康子 著(創森社/2000年)
『カルチャー・クリエイティブ : 新しい世界をつくる52人』辻 信一 著(木楽舎/2007年)